制度を生かすのは「相談しやすさ」——不妊治療と仕事の両立支援
不妊治療と仕事の両立支援は、休暇制度を作れば終わり、というものではありません。治療は終わりが見えにくく、その先には子育てとの両立も続きます。長く続く支援を、職場全体でどう支えていくか。治療と仕事の両立支援に取り組む社労士として、追いかけていきたいテーマです。先日(10/22)受講した厚生労働省の研修会で学んだことをご紹介します。
1. 研修の内容
厚生労働省の「不妊治療と仕事との両立支援担当者等向け研修会」は、行政・産婦人科医・社会保険労務士・産業医・コンサルタント・企業の6つの視点から両立支援を解説するオンデマンド研修です(2027年3月15日まで配信)。
産婦人科医の視点
~健康は、知識をもって意識しなければ維持できない~
講師の産婦人科医の先生は、不妊になる前からの「プレコンセプションケア」の大切さを話されました。
プレコンセプションケアとは、性別を問わず、適切な時期に性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う、という考え方です。
もちろん、「結婚する・しない」「妊娠する・しない」は人それぞれです。
そのうえで、もし妊娠を望む可能性が少しでもあるのであれば、若いうちに知っておくことで、選択肢が広がり将来に役立つことがあると思います。
国の推進計画も、思春期から成人期までの全世代・男女を対象としています。
講師は「妊娠前医療」ではなく「若年期ライフデザイン政策」と位置づけておられました。国の方針資料には「全世代型健康診断」という言葉も示されていました。
また、こども家庭庁が養成している「プレコンサポーター」は、養成講座を修了すれば職種を問わず誰でもなれるものです。企業の中では「社内の一次相談窓口」として機能しうる、とのお話でした。
企業の視点
~利用しやすい制度だけではなく「相談しやすい環境」を~
今回の登壇者は地元である鳥取県西部の企業の副社長でした!経営者であり、ご自身も不妊治療の当事者という視点から制度作りにいたったお話です。
同社の制度は、不妊治療の持つ特有の問題点に対し、真摯に向き合い設計されていました。
制度設計では「公平性・継続性・プライバシー」を重視したそうです。
具体的な内容は、相談について上司を経由せず同性の担当者へ直接つながること、治療内容の詳細や証明書類の提出は求めないこと、等です。
2. 気づき
いちばん心に残ったのは、制度の前提となる「相談しやすさ」です。
利用しやすい制度は大事です。でもそれ以前に、安心して相談できる環境がなければ、その一歩を踏み出すことは難しいものです。
副社長は「制度は利用されるためだけに存在するものではありません」と話されました。同社では現在、利用者はいないそうです。それでも「必要になったときには会社が支える」と社員が感じられること自体に意味があり、目には見えにくい価値を届けることも企業側の役割である旨お話されました。
利用件数だけでは測れない安心感を大切にする姿勢は、経営者が当事者になったからこその視点だと感じました。
3. 社労士の視点
① 支援は長期戦になる
不妊治療は通院の回数が多く、日程が急に決まることもあり、結果が約束されているわけでもありません。妊娠すれば、次は産休・育休、そして子育てとの両立が続きます。
② 給与を出し続けることだけが支援ではない
人手不足の中、離職は大きな痛手です。一方で、体力に限りのある中小企業が、給与を払い続ける支援を続けるのは現実的ではありません。研修では、時間単位の年次有給休暇・時差出勤・テレワークなど柔軟な働き方を組み合わせる方法や、従業員7人の美容業が両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)を活用して制度を整えた事例が紹介されました。
③ 鍵は「支える同僚」
制度を使う人の業務をカバーする同僚の負担をどうするか、公平感をどう保つか。
ここが置き去りになると、制度は使いにくくなります。業務量の見直しと「お互い様」の意識づくりが欠かせません。
4. 社労士としてできること
相談しやすい職場は、一度の研修で生まれるものではありません。管理職には「詮索しない・本人の意思を尊重する・情報共有は最小限に」という対応を、従業員全体には「お互い様」と公平感を。
継続的な研修を通じて、少しずつ職場の意識を育てていくことが大切だと考えています。
ほのわ社会保険労務士事務所では、就業規則への休暇制度や柔軟な働き方の規定、助成金の活用、社内研修、プレコンサポーターの活用のご提案などを通じて、制度づくりと相談しやすい職場づくりの両方をお手伝いします。
これは不妊治療に限らず、がんなどの病気の治療と仕事の両立にも共通する土台です。
お気軽にご相談ください。

